第1回夜の散歩報告書

だいたい夜はちょっと 感傷的になって 金木犀の香りを辿る


これは僕の好きなバンドきのこ帝国の『金木犀の夜』の最初の歌いだしなんだけど、まあ、このように秋の夜は散歩にうってつけなのである。

 

以前から家の近所の住宅街を深夜、ワイン瓶片手にウロウロと徘徊、空缶を蹴る、高いところに突き出た棒にジャンプしてタッチする、すれ違う人を睨み付けたあと微笑む等していたので、こんなくさくさした散歩じゃなく、ちゃんとした散歩をしようと思い、どうせなら独りじゃなくて誰かと散歩したいとも思ってTwitterで募集したところ8人くらい行きますよと来て、ひとりふたりなら予定を合わせようと思ったけれど、そんなに人が集うようなイベントじゃねえんだよなと何だか嫌嫌よとなってしまい、天気が良い日に勝手に開催して勝手に来てくれという無責任なスタンスで開催。僕は無益な行為に拘泥したいのだ。意味のないことを楽しみたいのだ。しかし。

深夜に集合して朝まで散歩、ただひたすらに朝まで歩くというこのイベントを当日に告知しても、当たり前の様に誰も来ないのではないか?という不安が夕方頃からモックモクに胸中にひろがり、夜になってから悪あがき。芸人に声かけてみたりするも、誰も捕まらず時間に。


さ、記念すべき夜の散歩第1回目は僕の生まれ育った神奈川県は川崎にある新丸子という小さな町からスタートすることにしました。この新丸子は多摩川沿いにあり、この多摩川をひたすら上流に向かって歩くと決定。

新丸子駅に24時少し前に到着すると、僕は駅の東急ストアで赤ワイン、水、パン、リンゴ等を買い、改札の前で早速赤ワインを飲みはじめました。誰か来るだろうか?ひとりでも決行すると豪語したけれど、誰も来ないようなら即帰りたい。家の近所をウロウロして眠くなったら帰りたい。等と思っていたら、横から「吉本ッ」と声をかけられた。

そこには、中学、高校と同窓である友人の男が立っていた。なんと彼はたまたま実家である新丸子に帰ってきていて、Twitterで僕が鼻息荒く散歩するンだ!!という呟きをみかけて、コイツ本当にやってんのか?と様子を見に来たらしい。彼は名を腹痛ケットシー(仮名)といい、僕の学生時代に出会った人の中で一番面白いボケをする人物であった。よく昼休みにショートコントとか作って遊んだものです。
とりあえず東急ストアに酒を買いにいかせる。


さあ、ひとり確保である。まあ二人でも良いのだけれど少し待つと、うら若い可愛らしい顔立ちの爆乳の女がやってきた。何だ?逆ナンか?と思いワインをグイッとひと口呷ると、彼女はなんと参加者だった。名を発光ダイオードレディ(仮名)と名乗り、なんでも「話したことない人と話してみたくて参加しました」みたいな事を言ってて、ああコイツァ生粋の狂人だ、と僕は思いました。とりあえず東急ストアに酒を買いにいかせる。

一応24時を10分過ぎるまで駅で待ったけれど誰も来る気配がなく、三人で出発。


駅から徒歩一分である元実家のマンションであったり、俺の中で一番美味い中華料理屋、綺麗なマンションがたち最早跡形もない思い出のラブホテル「アンゼラ」跡地などをアナウンスしながら多摩川へ。

そして、丸子橋から河川敷に降りる。ここらへんの橋は昔、アザラシが海から迷いこみタマちゃんの愛称で親しまれ、当時は連日人が凄かった。俺はタマちゃんと目が合ったことがある。スゲーだろ。ま、それはいいとして。や、よくないんだけど、スゲーとすべからく認めたという認識の上での、ま、それはいいとして。だから敬っては欲しい。だってあのタマちゃんと目が合ったことがあるのだYJは。ま、それはいいとして。

 

実は来る途中、電車の中から多摩川が見えるのだけれど、漆黒だった。もっと灯りとか河川敷にあった気がするのだけれど、あまりにも闇で少し不安だった。河川敷に降り立つとその理由はすぐに判明する。
先の台風19号、昨日の大雨の影響で河川敷はドロドロになってる部分が大半で、なんなら鏡面の様に水がまだ溜まっていて夜空を映していたのである。そら暗いよ。
さらに腹痛ケットシーの実家は、一階部分は完全に水没したらしく、その様をヘラヘラ笑いながら何でもないことの様にいう彼の目は完全に狂っていた。夜の散歩にエンジンがかかってきた。


コンクリートで舗装された比較的、歩くのに問題がなさそうなサイクリングロードを歩くことにして、散歩が本格的にスタート。


自己紹介などしながら、俺と腹痛ケットシーの思い出話、発光ダイオードレディが普段どんな仕事をしているのかとか、あんまよく覚えてないけれど、基本誰が喋るともなく喋り、話しは尽きなかった。

夜が深まってくると、すぐ横の国道を走る車の交通量なども減り、音がなくなりシンとする瞬間がある。だけど、その間も多摩川はゴウゴウッと唸り少し怖いくらいだった。そんなに唸るかねと思った。そんなに唸るかねと実際言った。
歩けば川幅は変化し、ゴウゴウッ と唸ってるかと思ったらサラサラ言っておしとやかになってみたり、シュンシュン流れが速い場所があればギョリギョリギョリと荒れ狂った流れの場所もあった。

たまにランニングする人やサイクリングする人ともすれ違う。

一度、前方から異様なオーラを発する男がズンズンに歩いてきて怖かった。
腰まである長髪を振り乱し歩いているのに目は前方を睨んでブレず、そんな頭部は錨肩と猫背の胴体に埋もっていて、ロングコート。昨日はそんなに寒くなかったのにロングコート。年の頃は僕より若いか同等で、よく見ると服も結構洒落ているというか、ホームをレスってる人かと思ったけどどうやら違くて、サイキック施設で幼い頃から隔離されていて超能力を特化する訓練ばかりさせられて、世間を知らず育ち今日ついに、悪徳所長をPKで殺し脱走してきた感じの男で、何というか葉っぱを投げ込めばパツと切れそうな異様なイキフンだった。

しかし。考えてみればコチラも充分に怪しい。縦一列に昔のドラクエの様な行軍で、手にワイン瓶を持ちながらなんだか敬語で話し合う集団なのである。よくわからない。怪しいVS怪しいだったわけで、男がそんな触る者みな傷つける様な空気を纏うのも少しわかる。

 

人との遭遇だけではない。こんなところに昔はなかった。というか昔はその企業もなかった。世界最大手と言っても差し支えない、あの某通販サイトの大倉庫?みたいな建物があり、それはそれは巨大で、地方都市にある巨大イオンモールよりも巨大な建造物で、深夜でもトラックはひっきりなしに走り盛況だった。蟻のようでした。営みが、人間が、蟻のようでした。

 

僕は何だかずっと闇に目が慣れなかったんだけど、しばらく歩くと、腹痛ケットシー発光ダイオードレディの歩みが少し遅くなった。何かに恐怖している。聞くと前方で数人の人間が腕を宙に放りブラブラさせたり、頭を変な位置にしたり、UFOと交信しているような光景が繰り広げられていたらしい。僕は全然見えなかったし酔っていたので、グイグイにその集団に近づくと中東系の感じの男女2:2の四人組で、アラブっぽい音楽が何やら流れていた。何をやっているんだ!と日本語で詰問すると、これまた20米程離れた場所にあった大橋を指差した。

彼らの後ろから、とても眩い光が差していて、彼らの影がその橋にうつるのである。そこで身振りや他人のと重なりなどで、影でショーをするダンスグループみたいな集団で、こんな深夜2時過ぎに異国でッ!?と僕は大変感心し、関心し、少し見てるとまだコンビネーションとか今一で、まあ、だから特訓してるんだろうし邪魔になるので足早にその場を立ち去った。

 

そのままずっと歩いていると、やがてどうしようもなくウンコがしたくなり、街の方へ河川敷から戻る。そこで4時。街は登戸駅だった。さ、ここで実はもうあんよ痛い痛いのYJは一時間程時間を潰し始発を待ち、登戸から小田急に乗って帰りたかった。


しかし、そんな肉体的疲労とは裏腹に、夜の散歩がすっかりテンションをブチ上げていて、もう少し歩き、当初の予定だった調布を目指す。


一時間歩き、また河川敷から町の方へ降りると、発光ダイオードレディが「あ、金木犀の香り」とポツリと言った。

正直、俺は何か川が臭くてそれどころではなかったけれど、自然と「金木犀の夜」を鼻唄していて、そのまま駅に着きfinish。実に約14㎞の散歩でした。

 

言おうか?言っちゃうよ?
夜の散歩、滅茶苦茶楽しかった。スタートする前に二回くらいもう全然ツマンネえよ帰る!って思うかもなと思っていたのに、一度も思わなかったし、時間もあっという間だった。次回もやる。というか、夜に散歩するなら今しかないのである。冬は寒過ぎる、夏は夜でも外歩きたくない。春か秋が気温は丁度良いし、やはり冬に向かっていくこの感じが丁度良いのだ。

 

しかし。

今回この少数だったから楽しかったのかもしれない。例えば一週間前に、これこれこういう場所でこの日時でやりますよ、とアナウンスすれば人は集まるかもしれないけれど、果たしてそれが正解なのか?
無益な行為に拘泥するなら、意味のないことを楽しむなら、やはり突発性は必然ではなかろうか?


ということで、夜の散歩はこれからもするけれど当日告知で、行っちゃおっかねぃと来ちゃう酔狂な人だけでやっていきたいと思います。

つか、そもそもこれは俺の暇潰しというか、だいたい夜はちょっと感傷的になって金木犀の香りを辿る為にやってるからさ、ま、でも次回は新橋集合でお台場目指す散歩にすることは、第1回参加者の協議で決定。都合が合えば奮ってご参加を!アデュー