車内にて

昨日の夕方、キャンプから東京に帰ってきて、や、東京も寒いんかい!と思ったけど、行った先も相模湖だからそんなに離れてないしそんなもんか、と思いつつ、レンタカーを返しそのまま中野坂上で少しホルモンなどをつまみ、軽く飲酒して、家まで2駅だから歩いて帰ろうと思っていたのに、席から立った瞬間に前後左右上下不覚になるようなものすごい目眩というか、眠気に襲われた。


原因はわかりきっていて、寝不足で1日はしゃいだからだ。もう帰るだけ、の算段になって心が弛緩してそのようになったのだろう。


というのも。


細かいところは割愛するが、昨日の日記の続きを書くと、朝、皆が起きてくるのを「おはようございます!」と、門の前で生徒とは違いすぎる温度で挨拶する校長先生のように大声での声がけからはじまり、残りの食料の調理や食事と片付けと荷支度をみながバッタバタに済ませ、11時にチェックアウト。
後、アスレチックでまあまあな寒さの中、汗でびしょびしょになるほど大人達ははしゃぎ、他にほとんどお客さんがいなかったけどあんなに楽しそうにしてたら、さぞ良い客ひきになったであろう。

その後に温泉。露天やサウナなどを堪能し、みな疲れきったのと時間の都合で滝はパス。

そして、帰りの車内での出来事だ。


車はニュークレープのリーダーが運転してくれている。これはしんどいぜ。
実は今朝、マッハスピード豪速球のガン太が朝から仕事があるため、ひとり早めに帰った。彼を駅まで送るためリーダーもわざわざ6時くらいに起きて送って、また寝て、起きて、一番後片付けを頑張っていた。偉い。マジ偉い。

さらに。

アスレチックでは彼が一番はしゃいでいた。アスレチックが27個くらいあって、チームを組んで競争したのだけれど7人だからひとりは独りになってしまうのだけれど、彼はひとりだった。全種目をひとりできっちりルールを守りながらこなしていた。偉い。マジで意味ない。偉い。


さらに温泉では、サウナ→水風呂のサイクルを何度か繰り返し、あっついあっついサウナは俺が入ったら既にいて、しばらく経って、俺があっついってなって出てもリーダーは厳のように動かなくて、苔のむすまで、なんて形容したくなるような不動さだったし。


彼だって疲れきっているのだ。なのにこれから我々7人を乗せた車を運転して、東京まで運んでくれるのだ。偉い!素晴らしい!偉い!


そんな時は我々、同乗者に出来ること、それは何か。ひとつしかない!


眠らないこと!


これが最大の感謝の印なのであり、何百回のありがとうよりも雄弁に彼に感謝の意を伝える態度なのである。


では、その車内のポジショニングを発表する。
運転席にリーダー。そして助手席にはこの会の首謀者、クレオパトラの長谷川さん。
そして2列目に、リーダーの真後ろに俺、真ん中に長谷川さんと家が近いという理由だけで連れてこられたナベコメスクール生の大石君(23)、そしてニュークレープのデビ。

最後列に、葵あおいちゃんと根本羽衣ちゃん。


この時点で俺は、女は寝るッ!と思っていた。中学生の頃の修学旅行の時から、一番後ろを陣どる女達は極悪と相場が決まっている。
この場において極悪な行為とは何か?もちろん快適そうに、すやすやと寝息をたてる事である。そしてリーダーは運転が上手い。すッやすやッに眠れる環境が整っている。
なので俺は女は寝ると思っていた。


車が走り出す。しばらくすると、行きは僕は車ではなくひとり電車できたので知らなかったのだが、行きの車内で、盛り上げる為にそれぞれ各人にルールが設けられていて、橋を渡る時は全力で笑う、幼稚園をみかけたらテンションがあがる、トラックをみかけたらイェーイと叫ぶ、など色々なルールがあったらしく、後発組だった俺とデビにもルールが追加された。何がいい?と言われ、僕は『赤い車を見たら狂ったように指をしゃぶる』に。デビは『セブンイレブンを見たら毎回初めてセブンイレブンを見た人のリアクションをする』に決定。
ちなみに俺とデビに挟まれた大石君は『バイクに乗ってる人を見たら男泣きをする』だった。

県道から高速にのるまでに僕は三回指を狂ったようにしゃぶった。セブンイレブンは一件しかなくて、看板の7の数字にデビはその店をパチンコ屋と勘違いしていた。
雨がぱらついているからかバイクの人はいなかった。


そして高速にのる。
高速ならセブンイレブンはない。上記の理由でバイクも走ってない。
赤い車はそこそこ走っているので、車内に響き渡るちゅぱちゅぱじゅるるハアハアちゅぱレロレロレロレロレロレロちゅぱという僕が指を狂ったようにしゃぶる音。
しばらくすると後部座席から寝息が聞こえてきた。


寝やがったッ!!
俺がこんなにも狂ったように指をしゃぶっているにも関わらず、女、寝やがったッ!!
まあ、でもいいでしょう。リーダーが笑ってくれている。


そこで僕は口イントロどん!を始めた。口イントロどん!とは、歌のイントロを口頭でやるだけのイントロドンである。
まあ、ルールを説明しなくても何となくわかる。
僕が急に「トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、トゥルルルラ、ハッハーハン、ハッハーハン、ハッハーハン、ハッハーハアン、ハッハー…」と口ずさむと後ろから「宇多田ヒカルの『traveling』だ!」との声。正解と叫びつつ振り替えると、羽衣ちゃんだった。寝てなかった!女、寝てなかった!横を見ると葵ちゃんは寝てた。寝てやがった!女、寝てやがった!


まあいい。気をよくした俺が第2問めを出そうとSMAPの世界にひとつだけの花のイントロを口ずさむとボリュームをミスった俺に長谷川さんからうるせえ!と叱責。ぎゃん。口イントロどん!は終わった。

 

次はどうしようか?と指をしゃぶりながら考える。
なにやら隣に座る大石君は、メンサの会員らしく、メンサとは言わずとしれたIQ150以上の天才しか入れない組織なので『本物はどれ?エピソードクーイズ!!』をやってもらうことに。
どういうことかというと、天才的な頭脳を持ってる人の嘘とはどんなものか見たかったので、軽めのエピソードを3つ話してもらい、その内のひとつは真っ赤な嘘でそれを当てるゲームだ。
これは結構楽しくて、出題者は大石君、羽衣ちゃん、俺、長谷川さん、リーダーとまわっていき、じゃあ次はデビ!となったら返事がなく、デビはすやすや眠っていた。

寝やがったッ!!高速入ってセブンイレブンないから気もはらずに済んで寝やがった!なんなら最初から高速にはセブンイレブンがないことを見越して、この条件にしたのかもしれない。
とにかく、車内中2/7が睡魔の餌食に。餌食というか自ら飛び込んだというか。


相変わらず僕が指をしゃぶる音が車内に響くも、ここらへんから僕も相当追い込まれる。久々にこんなに追い込まれた。
それは睡魔ではなくて便意。もう滅茶苦茶にうんこをしたくて、余計な言動を慎まねばこんにちわしてしまう状態に。
対向車線を赤い車が通りすぎる。長谷川さんが「あ、赤い車通ったけど」と言うものの僕は油汗が滲む顔をひきつらせヘラヘラすることしか出来ない。
僕がそう沈黙せざるを得ず、車内が静かになりはじめるとすかさず後ろから寝息が2つになり、一番後輩であり、なんなら今回がはじめましての大石君がうつらうつらしはじめ僕の肩に頭を乗っけてきた。


コイツらッ!!寝やがった!!キェッキェッ!!天誅天誅!と叫びながら頭骨を粉砕したかったが、そんなことをしたら僕のうんうんがこんばんわして一番の大惨事になるので出来ない。


そんな時長谷川さんは、今までは静かなる感じだったのに、リーダーと世間話などしはじめて流石の立ち回り。流石、今回の会の首謀者である!僕は追い込まれながらも大変に感心した。それに比べて葵ちゃん!てめえ全然起きねえなあ!!ずっと寝てんじゃねーか!気持ち良さそうによお!キェッキェッ!と叫びたいけれどもう限界が近くて、僕の臀部に位置する出口付近に待機している大物を透過してくっさいくっさい有毒ガスがプウ~ッと漏れでる。なのに起きない。僕はあまりの臭さに悶絶していたがみな起きないので、そのガスで死んだのではないかと一瞬不安になった。


ギリギリの攻防をしていると、いつの間にか高速をおりていて、リーダーがコンビニの前に車を止めてくれた。
ダッシュで駆け込みトイレを借りて発射すると、とんでもない大物のゴッドファーザー。グッナイと別れを告げ僕はコンビニをあとにした。


車に戻るとみなふにゃふにゃと起きはじめていて、街中にはセブンイレブンもバイクも赤い車も沢山あって、車の2列目の僕らはひっきりなしに初めてセブンイレブンを見たリアクションと男泣きと指をしゃぶっていたので、もうそれらが重なりあいオーケストラというか、ハーモニーを奏でていて、年末のベートーベンの第九を思い起こさせるような壮大な調べを奏でて大団円。

 

眠っていた面子は口々に運転をしてくれたリーダーにありがとう、ありがとうと感謝の意を伝えていたけれど、僕は言わなかった。なぜなら、眠らないこと、これが最大の感謝の意の表明であるからだッ!!結局、車内で一睡もしなかったのは俺と長谷川さんだけだった。

長谷川さんは普通にリーダーにありがとうといっていた。俺はただの嫌な奴だった。完敗。

 


そして中野坂上に着き、レンタカーを返し、軽くみなでホルモンなどを食べ飲酒したものだから、僕は極度の寝不足から家に着くと泥のように眠り先ほど起きた次第で御座いますな。


まあとにかく楽しかった。