やさしい雨が一番スベった時の話

テレビに出てスベったら、それこそ何万、何十万、何百万人。下手したら何千万人の前でスベったということになる訳だけど、目の前にお客さんがいないのでイマイチピンとこない。観客を入れて行われる収録はもちろん多数あるけれど、テレビに出てスベるというのは仕事がなくなるという形で体感出来る。当たり前だけど、ライブでスベるのとはペナルティの次元が違う。
だけど、その瞬間、最大風速でスベったなと体感出来るのはやはりお客さんの前に立っている時で、やさしい雨にとってそれは、NHK新人演芸大賞の決勝でしょう。


あれは震災のあった年だったからもう9年前の話ですね。毎年NHK新人演芸大賞というのが開催されていて、一般的な認知度はそれほどなんですがまあ由緒ある賞です。決勝の会場は東京と大阪を年毎に順繰りに開催されていて、予選を勝ち上がった関東勢4組、関西勢4組の計8組がその座を競うシステム。

僕らが決勝まで残った年は中川家さんがMCで決勝は大阪で行われた。
ニッチェが優勝した年で他の出場者は、さらば青春の光スーパーマラドーナ、ソーセージ(アキナの前身)、チキチキジョニー、2700、囲碁将棋、やさしい雨だった。
ホールについてから、ネタを一回通してやるリハをやるんだけども、その時に全員のネタを見れる。
言うか。まあ、結果わかってるからもう言っちゃうか。俺は他の人のネタを見て優勝出来ると思った。ヨッシャと思った。当時でも、やさしい雨が断トツで知名度がなかったけれど俺は他の人のネタを見て「…勝った」と思った。もちろんみんなネタ凄く面白いんだけど、そんな面白いネタを見た上で尚、松崎にこっそり「これいけるな…」と耳打ちしたくらいだ。松崎も頷いてたくらいだ。とんだ自惚れである。
というのも当時その決勝でやったネタに自信があった。こりゃいいネタが出来た!という手応えがあり、まず太田プロライブではじめて一位をとれて、他所のライブでも軒並み大ウケで、芸人からの評価もよく、それでこの決勝までサクッと残れたから相当自信のあったネタでした。しかも何かテレビのレギュラーとかあったりネットラジオやってたりして、ちょっとノってる時期でこう全身にみなぎるヤル気というかそういうモノが溢れていた。
ネタは『3分ハンティング』といって、3分クッキングに準えた女性の落とし方講座みたいな内容なんだけど、まあここまではよくあるネタだけど、後半の展開は当時僕は他で見たことないやつで、自画自賛が過ぎるけど、発明だと思った。


で、本番。
やさしい雨で、というか僕の人生で一番スベることになる。会場にいた数千人が5分間全く笑わなかった。4分かな?どちらでも関係ない。なにせ体感時間は10分くらいあった。あの規模で空調の音が聞こえた。プライベートも含めて一番スベった。凄い体験です。こんな経験お笑いやってなきゃ中々出来るもんじゃない。

まあ、ひとつ自らフォローさせてもらうとその日、全員スベってた。「いやぁウケましたね~」という人は優勝したニッチェ含め一組もいなかった。そうなるとみんな面白いネタやってたのにそんな感じということは、一番やっちゃいけないことだけど、客が悪かったと悪態をつきたくもなるもんですよ。ま、確かにウケるポイントが東京とは違うというのは感じた。けど関西勢も苦戦していたから訳がわからん。この数年後、営業で大阪いくけどその時もまあスベった。なので大阪嫌い。苦手とかじゃなくて嫌い。もう単なる偏見だけど関西人嫌い。


とんでもないスベり方をして、もう美味しいものを食べるしかない!と思っていたら、終わるのが22時とか過ぎてたから勝手に泊まりだと思っていたら日帰りで、他の関東勢は泊まっていったりするのに、なぜかやさしい雨は日帰りで、次の日仕事なんかないのに弾丸で、タクシー飛ばして降りたら駅の中走って急いで新幹線乗り込んで。
あの時の「や、帰りますよ」とふてぶてしく言ったマネージャーの顔が忘れられません。悪い意味で。

そんな人生で一番スベったNHK新人演芸大賞でしたが、得られるものもモチロンあって審査員にきたろうさんがいたんだけど、やさしい雨へのコメントを僕は凄い大切にしてきた。
僕らにコメントしてくれた他の審査員に俳優の内藤剛志さんがいたんだけど「内容と間が詰まっていて沢山練習したんだろうな、と努力の結晶のようなネタでした」的な事を言ってくれて、その後すぐにきたろうさんに「や、凄い頑張ったのはわかるんだけど、俺らの仕事はそれが見えたら駄目だよね」と言われた。
そのあと「ぐうの音も出ません」とコンビで声が揃った時だけその日お客さんにウケた。
まさにきたろうさんの言う通りだ。ホントは誰にも真似出来ないような難しいことを誰にでも出来そうと感じられるように、誰にでも真似出来るように飄々とやってこそ『芸人』だろ、と。それを叩きつけられて納得してしまった。きたろうさんカッケぇ!と項垂れてしまいました。
まあ、時代は変わって今は『頑張ってます!』と全面に出していった方がウケやすいのかなとも思います。


そういえば帰りの新幹線のホームに内藤剛志さんがいて「僕は良かったと思うんですけどねえ。引き続き頑張ってください!」と声をかけていただいて、少し胸が熱くなった。

東京の予選で審査員をしていた作家さんが帰り日帰りの僕らに缶ビール自腹で奢ってくれた。ありがたかった。新幹線にもついてこなかったパイナップルみたいな髪型のマネージャーが憎かった。どう頼んだらそんなパイナップルみたいな髪型になるんだよ。気になるよ。聞けず仕舞いだったよ。確かアイツ大阪泊まってったんじゃなかったかな。怪しからんですよ全く。
まあ、スベる前はあんなに自信のあるネタで方々のライブでやっていたのに、それ以降一度も、マジの一度もやってませんね。この前久々にそのネタの台本みたらダメなトコだらけで笑えましたけど。というか決勝の様子はテレビでも流れたからとんでもない人の前でスベってたんだな。うは

 

 


次回は、やさしい雨が結成した時の話。