卒業式の日の話

高校時代の事をみなさん思い出してみてください。
いや、私中卒やからね仕事をもらえへんのや。というような中島みゆきのファイト!みたいな人生の方は中学生時代を思い返して下さい。
一番カップルが誕生しやすいのはいつ頃だったでしょうか?僕の見解だとそれは、体育祭の時期だと思う。僕が通っていた高校では体育祭の一週間後に文化祭があり、この秋のお祭り期間に莫大な数のカップルが誕生していた。


さ、地域や年代によって多少なりとも変わるかもしれないけれど、どこの地域や年代だろうが上位に『卒業式』というのが入ってくるんじゃないだろうか?

 

斯くいう私YJもそのひとりで御座います。

高校の三年生の卒業式が終わり、最後のホームルームが終わっても学校には沢山の人が残っていた。
卒業アルバムというのは、後ろの何ページかが白紙になっており、それは何の為にあるのかというと、学友共に何か別れの言葉や感謝の言葉、これから頑張れよ!的な激励や叱咤などを書き込むためのスペースである。

このスペースに沢山書き込みがしてあると、なんだか人望があるみたいな感じになるし、親がこっそりと卒アルを眺めた時にあ、マイサンもしくはマイドーターなかなかやるやんけ。と胸を撫で下ろすのである。

しかし実際あの数ページが文字でびっしり埋まる程、みんながみんな友達100人いるわけではないので、放課後になって何時まで経ってもみんなが帰らないのは実は、マジックペンを持ちながら幽鬼のようにウロついて手頃な相手にエンカウントするのを待っているのである。


2ページくらいは結構すぐに埋まるのだけれど、まだまだスペースが空いている。僕は他のクラスや職員室などウロついて、ページを埋めていった。というのも実はどうしても書いて欲しい女の子がいて、その子を探して校内をウロついていたのである。クラスに行ってもいないし学食の方にいってもいない。職員室にも体育館にもいなくてどこにいっても中々見つからない。行った先行った先で卒アルのページを少しずつ埋めていく。そして行った先行った先で◯◯さん見なかった?と聞くと、何処其処にいたよと証言があるものの、後手後手で僕が行った時にはもういない。
もう帰ってしまったのだろうか…。

そうそう、実は職員室をたずねた時に担任の先生から、あ、担任は体育教師だったから職員室じゃなくて体育準備室か。その時に担任から「そういえば司書の先生がお前を探してたぞ」と。
僕は三年生の時、進学はしないと決めていたから学校が暇で暇で、よく図書室に入り浸っていた。高校の図書室は漫画が充実しており、雑誌なんかも結構揃っててよく借りたものです。
頻度が半端ないので、司書の先生と仲良くなり、結構寡黙で視線がするどい痩せぎすの眼鏡をかけたおばさんだったのだけれど、仲良くなると知性と皮肉がたっぷりなシニカルな冗句を飛ばすような人で僕は結構なついていた。
そうだ!司書の先生にも卒アルのページを埋めてもらおう!と思い、どこにいるのかな、職員室にはいなかったしじゃあ図書室かな?と思って向かう。
廊下から見た感じ図書室には人が誰もいなくて、あれー今日は閉まってるのかな?と思ったら鍵は開いていて、中に入るも、やはり誰もいなかった。準備室の方は鍵がかかっていてノックするも人のいる気配がない。あー、ここにいなかったらどこにいるんだー?と図書室を出ようとした時に、貸し出しの受付をする台の上に一冊の本と手紙が。手紙は司書の先生が僕宛に書いたもので「見つけましたので卒業祝いにどうぞ。卒業おめでとう」みたいなことが書いてあった。本は屋久島のmapだった。

高校を卒業して3月の間に僕は屋久島の杉の木をみたくてひとり旅をしたのだけれど、卒業する前に図書室で屋久島のこと調べようと思ったらあんまりいい本がなかったのである。そこで司書の先生に「屋久島の本ないよー」とひとり旅の計画を話した。多分三学期の話だけれど僕は話した事も忘れていた。司書の先生はそれを覚えていてくれて、しかも自腹で買ってプレゼントしてくれたのである。図書室で少し泣いた。その本は今でも持っている僕の宝物のひとつです。司書の先生の名前一文字も思い出せないけど。


さ、そんなこんなでもう二時間くらい経っていた。夜は打ち上げがあるからサッサ帰って準備をしなければ。
僕はもう会いたかった女の子は帰ったんだろうな、と諦めて帰ることにした。

すると、下駄箱でバッタリ。びっくりして中々喋れなかった。何か向こうもびっくりしていて互いに無言。僕はあ、そうだ!これ書いて!と卒アルを差し出し、向こうもじゃあ私も書いて!と卒アルを差し出してきた。何て書いたか覚えていてないけど、なんか緊張して字が震えたのを覚えている。


そして、そのままバイバイ。

 

僕の高校生活が終わった。

 

そして打ち上げ。男女比率が6:4で6が女子の共学で、僕は三年生の時、男子クラスだったので打ち上げはムサイ男どもばかり。男しかいないならいないで楽しみ方はあって、居酒屋に行く前にクラスみんなでボーリング。何ゲームかしていると携帯に友達の女の子から電話。出るとその友達ではなくて、僕が探してた女の子だった。

「え、なに?」
「あのね、電話番号わかんなかったから□□知ってるっていうから」
「あ、うん」
「あのさ、今度遊びにいかない?」
「え、ごめん!聞こえなかった!今ボーリング場にいて」
「あのね!好きなの!今すぐ付き合ってとか言うつもりなくてさ、とりあえず今度どっか遊びにいかない?」
「う、うん!行こう行こう!あ、ちょっとゴメン、俺が投げる番だわ、あ、ちょっと一回切るね」

 

とかいう塩対応をしてしまい、でも俺は浮かれていて人生最高スコアを叩き出す。僕はボーリング下手で200越えたのはあの時だけだったな。


そして居酒屋に移動して浮かれポンチでしこたま飲む。そこで彼女のクラスは二次会でカラオケオールナイトをしているという情報を掴み、酔っ払った僕は単身そこに乗り込む。なんだなんだ?YJが来たぞなんだ?と訝しい顔の彼女のクラスメイト達。僕はサササと電モクで割り込み予約をしてMr.Childrenの君が好きのサビの「君が好き~君が好き~」の君の部分を彼女の名前にかえて熱唱。馬鹿にされ笑われ冷やかされる僕と彼女。たまらず彼女は僕の手をとり部屋の外へ。


「ちょっと何してんの!?」
「いや何かテンション上がっちゃって!」
「なんで」
「だって今日放課後ずっと◯◯さんのこと探してて、諦めて帰ろうとしたらいて」
「え、そうなの?私もずっとYJのこと探してたんだけど。いないから帰ろうとしてた」
「そうなの!?」
「うん。びっくりしちゃって」

「じゃあお互い探してたから中々会えなかったんだ」

「そうだね、変なの」
「面白いねなんかね」
「で、その時は言えなかったけど、電話で」
「あ、うん…」
「うん…」
「あ、なんか黙るとさっきミスチル歌ったの恥ずかしくなってきたな」
「いや大分恥ずかしいよ」
「でしょうね!」
「でも嬉しかったよ」
「…うん」
「…うん」

 

ビル全体がカラオケボックスだったのだけど、その日は大体うちの学校の貸し切りみたいな状態で、僕らは最上階より上の階段に腰かけてお喋りしていた。

各部屋から漏れ聞こえてくる色んな歌が混じりあって、何だか素敵なラブソングに聞こえた。控えめに笑うふたり。

 

僕はベロベロに酔っぱらってしまっていてもう凄く眠くなってしまい、彼女が膝枕をしてくれた。ミニスカートだった。

 

 

僕は膝枕してもらいながら酔いと眠気の中でボンヤリと思った。なんか臭いな。あーこの臭いって、あ、そうか、コイツ今日生理だなって。