レバニラ炒めで嗚呼。

レバニラ炒めが好きなんだけど、家で作るのはちょっと面倒臭いので外で食べる。外で食べるというか、家の近所に中華料理屋があって、キッチンもホールも中国人の方がやっていて、格別に美味!という訳ではないけれど、充分美味というか、レバニラ炒め食べたいわあとなったらその店で満足。今日も行った。しかし。

 

僕が店のドアを開けると、この店はテーブル席が大小合わせて8席程の店なんだけど、おっさんの四人組が一組、すでに唐揚げや餃子をあてに麦酒などをやっていた。
僕は、あ空いてらっしゃると思い幸運。小さいテーブル席に座ると、今日はレバニラ炒め定食を食べに来たのだけれど、一応メニュウに目を通し一考した上でレバニラ炒め定食を誂えてもらおうとホールをひとりで担当している若い娘に頼む。

定食にすると主菜の他にご飯、玉子スープ、おしんこ、冷奴、杏仁豆腐等がついてくる。
調理場が用意するのはレバニラ炒めと玉子スープのみで、他はホールの人間がライスクッカーからご飯をよそったり、ホールに用意された冷蔵庫の中から他のものを取り出し盆に乗せ提供する感じだ。


僕が待っていると、前におっさんズAが頼んでいたと思われる炒め物の料理が運ばれてきた。
僕は、ま、他にも頼んでいそうだけれど僕はお酒も飲んでいないし、次は先に僕のレバニラ炒めを作ってくれそうだな。というかそうするよね普通に。と思っていると店のドアが空き、おっさんが3人入ってきた。彼らは我が物顔で奥のソファのテーブル席に座ると、生3つと頼んだ。
その時またドアが開き、おっさんがひとり入ってきて小さいテーブル席に座る。


丁度同じ時、調理場とホールを繋ぐ小窓みたいなところにレバニラ炒めと玉子スープがトンッと置かれた。お、きたきた。早くあのレバニラ炒めを貪りたいものだ。


若い娘が定食の準備をしようとしていたら、おっさんズBが生3つ早くね!と言った。娘は嗚呼といって、俺の冷奴やおしんこや杏仁豆腐が入っている冷蔵庫からジョッキを3つ取り出しサーバーから注いでいた。

まあ、仕方ない。酒の提供はいち早くするのは飲食店では鉄則であり、優先事項第一位である。
娘がまた、僕の定食の準備をしようとしたら、ひとりで来たおっさんが「レバニラ炒め定食」と言った。娘はまた嗚呼と言い、その後調理場に中国語でなんか言った。オーダーを通したのだろう。

するとドアが開き、おっさんがひとり入ってきた。このおっさんはおっさんズBの連れで、席に着くなり生ね!と叫んだ。醜怪だった。店内には10人のおっさんがいた。娘はまた嗚呼と言って、さっきから喘いでばかりいた。じりじりと俺の中の苛が溜まりはじめた。


でもでもさすがにおっさんズBにあとから合流したおっさんの生麦酒を提供する前に僕の定食を持ってきてくれた。良かった。レバニラ炒めは少し冷めていたけれど、急いで口の中に放り込めば火傷して口の上顎の皮がベロベロになるくらいには熱かった。俺の上顎の皮はベロベロになった。


すると、俺の席はレジに近くて、レジには電話が設置されているのだけれど、ティリリリリリと鳴った。娘はコレに出ると、なにやら電話口の相手が早口の日本語なのか、頻繁に「ごめんなさい、もう一回言って」と言っていた。


この電話中におっさんズAのひとりがグラスを掲げ、コレお代わりと言った。

おっさんズBのあとから来たおっさんは麦酒が来ないので苛々しながら、電話に対応している娘を睨んでいる。

その時、調理場とホールを繋ぐ小窓からレバニラ炒めと玉子スープがトンッと置かれた。

ひとりのおっさんはさっきの俺と同じ様な状況で、あ来たと思っているのに、食べれないお預け状態で涎がダラダラ垂れていた。


というか、調理場の人間は音から察するに二人いる。ひとりがホールに出て対応すればいいのに、頑なに出て来ない。なんならひとりトイレに行った。娘があんまりにも可哀想である。


娘は電話の対応を終えると急いで、生麦酒をジョッキに注ぎおっさんズBのテーブルに持っていった。するとおっさんズBは料理の注文いい?と言ってメニュウを見ながら、コレとコレとコレとみたいに注文をし始めた。


先ほどおっさんズAのコレお代わりって言ったおっさんが、またコレお代わりね!と叫んだ。

 

僕は自分の事ではないけれど、この時点で苛が五個くらい貯蓄されて苛々々々々になっており、とっくにレバニラ炒めの味はしない。

なぜみんなこの小娘をちょっとは気遣わないのか。滅茶頑張ってるじゃんね。なになの。


そしたらおっさんズBはまだ注文していて、どうする?あと何にする?みたいな糞みたいな時間の浪費をしていて、その間にもお預けを食らっているおっさんは涎を垂らし俯いて、この世の終わりみたいな帳が彼の周囲に降りていた。
おっさんズBは料理のオーダー中にひとり生麦酒を飲み干し生お代わりと言い、長い注文が終わった。娘は嗚呼と言っておっさんズAに何か言われたのは覚えていたけど、内容は忘れてしまったのかおっさんズAのテーブルに行き、何でしょう?みたいに聞いているんだけど、コレお代わりしか言わなくて、それが何だったのか忘れたのか、レジのところまで戻ってきて伝票等を確認している。

その時トイレから調理人が出てきて、ホールを一瞥。娘と目が合って、そのまま調理場に入っていった。


泣きたくなった。


お預けを食らってるおっさんの足元に漆黒の穴が空き、堕ちてすっぽり嵌まっている。

娘は嗚呼といい、レバニラ炒め定食の準備にとりかかる。ドアが開く。おっさんが二人入ってきた。嗚呼。
またBが生持ってきてという。Aの先程とは別のおっさんもコレお代わりとか言っている。嗚呼。レバニラ炒めがお預けおっさんの元に運ばれるが、水が出ていない。俺はそれがずっと気になっていた。味濃いからね。嗚呼。段々俺の呼吸が浅くなる。最期に来たおっさん二人がすいませーんと呼んでいる。俺はもう食べ終えていたけど会計を今頼めない。娘は嗚呼しか言わなくなってる。嗚呼製造機と化している。異国の地で。異国の地で。嗚呼。おっさんが大分待たされたレバニラ炒めを口に運ぶ。熱ッと小さく言った。良かった。急いでおっさんは水を飲もうとするけれど、そう、お冷やは運ばれてきていなかった。