餃子の王妃

本日は確定申告をしてきた。

今月の頭に確定申告をしに税務署まで行くとヌレースに成り果てるなど苦杯を喫した。(未読の方は3月4日更新分の「確定申告しに行ったけどしないで帰ってきた話」もぜひ)
しかし、そこは3月の後半。人は少なくサクサクと申請が終わり快適。

 

確定申告をすると今年度が終わった感が半端なく、一息つくと、腹が鳴り、何か食みたい。胃を満たしたい。そいや朝から牛乳しか飲んでないな16時になるというのに。そうして空腹を自覚すると間断なく腹が鳴り、その饑さたるや尋常ではなく、僕はもう食事のことしか考えられなくなった。
という事で、税務署から駅までのどこかで飯屋に入ろうと画策するも、飯屋が繁華している地域は税務署とは駅を挟んで反対側で、あるのは寂れて潰れかけているかもう潰れているスナック、喫茶店、手作りとうふ店、うどん屋、葉を売る茶屋などで食指が動くものはなく、気づけば駅に着いていた。

こうなれば反対側まで歩き散策を続ければ良いけれど、もう腹へりゲージが0になり、これから先は一歩づつdamageを食らってしまいHPがガンガンに減り、その結果何ともつまらない、道端に落ちている腐ったパンなどで急場を凌ぐのは目に見えているので、駅の下にあった大手餃子チェーン店に入る事にした。

というと、仕方なく入った、面倒臭いからチェーン店で手をうった、良いイキフンの店を知らないただのお子様、みたいな感じがするけれどそんなことはなく、店前の幟を見た時に、久しぶりに餃子を貪りたいと唾液が止めどなく分泌。そいや、毎年確定申告した帰りにここに寄るなあと思い、もうそうなると餃子以外に選択肢はなく、今から餃子の専門店を探すなんて愚の骨頂で、チェーン店とは言い条、その餃子は美味と称賛に値するのは周知の事実。なので僕はその大手餃子チェーン店に入店した。


するとすぐに店員の女がやってきて、その女はママさんバレーとかでセッターとかやってそうな溌剌としたリーダーみたいな声のデカイ女でカウンター席に通された。
この店舗は結構広くて、さらに昼食には遅く夕飯には早い中途半端な時刻にも関わらずまあまあの客入りだった。カウンターには僕だけで、7席くらいあるカウンターの端に通された。


色々とメニューがあるけども、とにかく餃子を食みたい僕は餃子定食といって、その内容物は、焼き餃子が二人前、玉子スープ、サラダ、飯、漬物のセットを注文しようと店員を呼んだ。

すると、さっきとはまた別の女がやってきて、今度は地域のゴミ出しに煩そうな声のデカイ女で他人の不正は絶対に許さない!けど私はペットボトル丸めて燃えるゴミの日にこっそり出しちゃう。みたいなキツネのような、さっきとはまた別の感じでリーダーシップを発揮するタイプの女で、ホールにそんなパートリーダーみたいな女がふたりいるなんて珍しいな、と思いつつ僕は餃子定食を注文すると女はギョーテイイッチョー!と叫んだ。僕はそんなオーギョーチの様な物は頼んでないと憤慨しかけたけれど、あ、餃子定食を略してギョーテイと呼ばうのかと気づき溜飲を下げた。頭に血がまわっていない。空腹で思考が鈍く、やや攻撃的になっている。イカイカン。

 

ギョーテイを待っていると、カウンターの端の方で、先ほどのセッターとキツネが喋りながら皿や箸などを布巾で拭いている。
なにやら、今朝ほどデザートスプーンの大量失踪事件が起こり、その行方、犯人などの推理を互いに披露し合っているのだ大声で。しかも互いにリーダータイプの人間だから持論を譲らず議論は白熱。そこに、特技は追従笑いです。みたいな保身の為の嘘は平気でつきそうな権謀術数に長けた感じの豆腐顔の女も加わり盛況。下らないと少し耳を離した隙に、犯人はまだバイトに入って日が浅い芳村さんという方に三人は断定していた。
そこから三人の芳村さんの悪口合戦みたいなのが始まり、業務を教えたのにメモをとらなかった、賢しげで腹が立つ、全然頭良さそうな顔してない、口は達者、少し可愛い顔してるから調子乗ってる、入ったばかりなのにいきなりバイト休みがち、何故ならおじいちゃんが死んだらしい、などと大きい声なのにひそひそ話みたいな感じで話し、一応客に気を遣ってひそひそ話みたいな感じで喋っているのも腹が立つというか、そもそも世間話ホールでするなと思う。


多分、芳村さんは結構利発で彼女等に比べたら若い女性でしかも容姿も良い加減なのではないか。そしてデザートスプーンの大量失踪事件にも関与していないのではないか。なんなら豆腐が真犯人で、この場にいない芳村さんに罪を被せた可能性は濃厚で、そもそもデザートスプーンの大量失踪事件て何?は?どうでもいいよ。と僕なんかは思うのだけれど、セッター、キツネ、豆腐の話を聞いていると、そんなにもデザートスプーンが失踪してしまった現状ではホール業務のパフォーマンス効率が従来に比し50%ほど低下するのだという。なんでだよ。ンな馬鹿な。彼女らはソレに託つけて、シュッとしていて気に食わない芳村さんに対し、新人潰しを実行しているだけなのである。浅ましいことです。
その間も、そんな粗雑な三人だから、皿や箸を布巾で拭いたものをガチャガチャと乱雑にカウンターに起き、五月蝿いこと高架下の如しだった。


そんな奴らは店にとっても不利益なはずだけど、多分このオバサンふたりはパートリーダーの二大巨頭でとにかく声が大きい者が勝つという世の中の真理を地でいくようなふたりなので、キッチンの男性陣含め誰も文句が言えない、みたいな感じなのだ。そして、そんなふたりを気分よくさせて真に操っているのは豆腐なのだ。とか思ってると僕のもとにギョーテイがやって来た。

 

むほほ。うまそ。これこれ。

気の弱そうな兄ちゃんが運んできてくれたんだけど、つか、ホールの女どもはまだ芳村さんの悪口を言ってて、キッチンの兄ちゃんが運んでくる始末で、兄ちゃんは「餃子の焼き色は大丈夫ですか?」と謎の気遣いまで発揮して接客しているというのに。


待望の餃子の前にごちゃごちゃと煩雑な音の一切が消え、集中力の凡てをもって味覚のみを稼働。
餃子は美味だった。たまらん。これがあと11個もある。うひょひょ。玉子スープをすすり、漬物を齧り、ご飯をひと掬い口にいれ咀嚼。ああ幸福。至福。もう一個餃子を口に放りこみ、ご飯と共に口の中で広がる美味なる下品なハーモーニー。最高かよッ。これこれこれこれぇーッ!!そして水を一気にひと飲みすると漸く少し落ち着いた。


さっきの女どもの会話も全然常識の範疇というか、なんかピリついてたから悪人の様に感じたけれど、接客態度自体はハキハキとしていて好感が持てるし、なんかオバサンの割には肌も綺麗で、なにより生き生きと毎日の生活を送っている様にも見える。彼女らの言う様に芳村さんが悪い気がしてきた。
そしてそんな凡てに大して肯定的な気分になり、サラダを食べようとした時である。


サラダに何もかかってなかった。

あ、なんだ、ドレッシングは卓上に設置されていて種類があり、自分の好みの味を選べるのかな?でも、餃子のタレ、ラー油、酢、胡椒、爪楊枝、箸、ナプキン、水しかない。
種類が選べるどころかドレッシングに類するものが置かれていない。

と、なるとサラダには最初からキッチンでドレッシング様のものをかけて提供するはずだが、まさか素で青野菜を食えということなのだろうか。サラダの上に鳥の解した身が乗っているけれど、これが味が濃くて、野菜も一緒にいけるということだろうか?鳥肉を食べてみる。何の味もしなかった。や、確かに俺は今ダイエットをしていて、鳥のササミとかはいいとか聞くけど、それを応援してくれているのか?そんな筈がない。味のない野菜をムシャムシャ食うと思われてるのかな。このウサギめ、と。寂しがり屋のウサちゃんめ、と。そんな訳がない。ただドレッシングをかけるのを忘れたのだ。

そう思い、キッチンの方を見る。カウンターとキッチンはガラスで仕切られていて中の様子が伺える。
すると、先ほどギョーテイを俺のもとに運んできた気弱な兄ちゃんがメモ帳みたいのを手に年輩の男性から何やら教わっている風な感じ。これで決まりだ。気弱な兄ちゃんは新人で、先ほどの「餃子の焼き色は大丈夫ですか?」という謎の気遣いも、もしかしたら餃子を焼くのもはじめてとかで、これで大丈夫か不安という意味で聞いてきたのかもしれない。ムムム。餃子の焼き色に拘泥するあまりサラダにドレッシングをかけるのを忘れてしまったのだろう。

 


さて、どうするか。
や、そんなの店員をビシッと呼びつけて「これドレッシングかかっとらへんねやけど、どないなっとんねんけつかんねんなんでんかんでん!」と怒鳴りちらしてドレッシングをかけて貰った上で「こんな味のないもんで腹膨れてもうたやんけ。どないしてけつかんねんなんでんかんでん!」とよく分からない理論で飲食代の無料化を訴える。これがベストだろう。しかし僕はそんな厚かましい関西人のようなマネは出来ない。

普通に、これドレッシングかけて下さい、といえばいいだろ。と思った思慮の浅い者もいるかもしれない。
しかし、それは結局新人のミスな訳で、あんなに気弱な兄ちゃんならば、自分のミスで客に味のない野菜を食わせて寂しがり屋なウサちゃん扱いしてしまったと自責の念に押し潰されてロープで首をくくるかもしれない。

 

どうにかキッチンに知らせずホールの方に伝えて、ドレッシングをかけてもらおうか。するとセッターとキツネと豆腐はまーだ芳村さんの悪口を言ってて、まだ言ってンのかよッ!!貴様等が縊れろッ!!


漫才をやらないでコントばかりやってきた僕は、いい加減にしろ!やめさせてもらうわ。という台詞をはじめて言った。心の中で。

もし、あんな状態のホールの人間を此方まで呼びつけようもんなら、セッターなんかはこちらでございますねええええ!などと叫んでバレーのスパイクの様にドレッシングをサラダにぶちまけてきそうだし、キツネなんかはあとで俺の影口が立て板に水でそれは気弱な兄ちゃんにまで波及して「あんたのせいでクレーム入った」とかねちねち言われた兄ちゃんは結局縊死。豆腐は表面上は何事もなくサラダにドレッシングをかけてくれそうだけれども、実は芳村さんを一番憎んでいそうなのは豆腐で、この件をもって芳村さんを謀殺しようとするだろう。

結果ここにいない人にまで迷惑をかけることになり、そんなことなら、僕が味のない野菜を寂しがり屋のウサちゃんのようにムシャムシャ食べればいい訳で、つうか、サラダにドレッシングがかかってなかったくらいで、何をくどくどと長ったらしく語ってんのじゃケチくさい陰険な野郎じゃのう。と言う声が聞こえてきそうで、何で何で。悪いのは僕でしょうか?気弱な兄ちゃんでしょう?いや気弱な兄ちゃんは一生懸命仕事をしていて新人だからそりゃミスをすることもある。仕方ない。じゃホールの三人組か。奴らがこの店舗を牛耳っているのは確かで、王将なんてどこにもいなくて、もう餃子の王妃というかそんな感じで誰も逆らえなくて、いつの間にか俺も感化されて奴らに反抗出来ない身体になっているというか、気付いたら餃子のタレをサラダにかけてムシャムシャと食んでいた。孤独なウサちゃん。可哀想なウサちゃん。しょっぱい。しょっぱいよ。涙が流れてサラダにかかり尚更しょっぱいよ。失敗よ。


あんなに美味しかったギョーテイに泥を塗り付けられ敗亡。ガックリ項垂れて伝票を持ちレジに行くと、ホールの人間は誰ひとり来ず、気弱な兄ちゃんとはまた別のキッチンの兄ちゃんが出て来て会計をしてくれた。その兄ちゃんは餃子の王妃達を睨んでいた。殺伐としていた。ただ殺伐としていたのです。ヌラヌラと油で光る床の上で。

 

 

 


そんな虚しさと苛立ちから怒涛の1km水泳。軽く泳げたわ。

 

 

 


【ダイエット22日め】


体重78.0㎏
体脂肪率25.4%


プール行ったから明日は期待出来る。