良い接客態度の店員について

 

 

CDショップのTOWER RECORDの店員さんといえば、みな若くって、髪が桃色や緑だったり、耳や顔面に金具が仰山ついてたり、服装も店のエプロンを着用していれば何でもアリみたいなアヴァンギャルドな店員さんだらけのイメージがある。アヴァンギャルドな店員だらけ故に普通の容子の店員の方がアヴァンギャルド度が高いくらいだ。
そういった如何にもアヴァンギャルドそうな店員さんは低血圧というかボソボソと喋り覇気もなく世の中に対しての怨み言はアリますみたいな勝手な印象を抱きがちだし実際そんな奴は多いが、TOWER RECORDのアヴァンギャルドな店員さんは皆一様に明るくハキハキ喋るので、ちぐはぐで此方の調子が狂うというか、そんな見た目なら態度は悪くあって欲しいナ☆みたいな変な感情になるくらいに接客態度が良い。


今日外出した折に、そういえばポルカドットスティングレイの新しいアルバム出てたなと思いだし、ついでに新宿の店舗に寄った。
目当てのアルバムが陳列されていて、通常盤の他に初回限定盤などあり、これはCDの他にDVDなどが付属していたりして少し豪華その分値段もやや高め。さらにTシャーツ付きみたいな盤まであって迷ったが、こういうのに付いてくるDVDってどうせ最初の一回くらいしか見ないんだよなあと思って、通常盤を手にとりレジに向かった。

そしてレジ待ちの列に並んでいる時に、そういえばYUKIのアルバムも出てんじゃんと思い出す。
前は凄い好きだったんだけど、どこかのタイミングで僕の中で何かがズレてしまい少し疎遠になっていたのですが、やたらとシンクロニシティという歌がもう大変素晴らしく、その歌が新しいアルバムに収録されてるはずだしヨッシャ購買しよ!ってことで列を離れた。

新宿のTOWER RECORDはざっくり言うと、最新のやつとかイベントとかやるステージがあるフロア、その上のフロアが邦楽、その上が洋楽、さらに上がDVDとかそんな感じだったと思うんだけど、僕は邦楽のフロアにいて、YUKIの新譜なんだからブースが特設されてると思ったらなくて、あ、多分下の最新とかのフロアにあるんだな、まあ、でもこのフロアにもCDはあるっしょ、そして、ミュージシャンが50音順で並ばされた通常のJ-POPの棚『ゆ』のところに、果たしてちゃんとあった。
手にとるとそれは初回限定盤でDVD付きだった。サッと見ると初回限定盤しかなく、多分下のフロアにはあるんだろうけど、そこはミュージシャンが50音順で並ばされた通常のJ-POPの棚なので、ひとりに割くスペースも狭いというか、陳列されていたが既に売れてしまい下のフロアでは特設のブースが設置されているしって感じでほったらかしにされているのか、とにかく初回限定盤しかなかった。
ま、下のフロアに移動するのも面倒だしコレでもいっかあ。と思いそれを手にとりレジ待ちの列に並び、そして僕の会計の番になった。

僕の会計を担当した女性は、背ィがとても低くかつ細く肌は白く、髪は黒いツインテールで頭にひらひらのレースが着いていた。
何ていうんですか、西洋のメイドさんみたいな、ゴシックロリータっていうんですか、エプロンの下もそういった黒い感じの服装でメイド喫茶でもないのに、とてもアルバイトをするような服装ではないけれど、日本人には珍しく非常によく似合っていた。
というのも、これは僕の偏見だろうけど、そういったゴシックロリータの感じってゴシックロリータでブスを散らすというか、ゴシックロリータで肥えた体型を誤魔化すというか、普通の容子じゃ外見的にワンランク下に見られてしまうからゴシックロリータのファッションで身を包み普通ではなくなることで、素材そのものの評価が難しいというか判定不能に相手を追い込むというか、生の魚にチリソースやお好みソース、カレーソースをぶっかけて魚の味を評価出来ない。みたいな目論見の下、ゴシックロリータのファッションに身を包んでいるに違いない。ま、そもそも好きだし、という言い訳も完璧だ。と思っているし、そも西洋人じゃないとやっぱり似合わないよ、と僕は確固として思っているからである。
彼女はちゃんと似合っていて、普通に綺麗な女の子だった。

ま、それはどうでも良くて、彼女がポルカドットスティングレイの通常盤のアルバムのバーコードをレジスターで読み込み、次にYUKIの初回限定盤のアルバムのバーコードをレジスターで読み込もうとした時に「コチラは初回限定盤ですが、よろしいですか?」と聞いてきた。
多分定型文の質問なんだろうけど、僕はそれをとても親切に感じ、あ、マジ?そもそも通常盤で良かったんだけど、初回限定盤しかなかったからそれ持ってきたんだけど通常盤がレジの内側とかにはあってすぐに用意出来るのかな?と思い、間違えて持ってきちゃった感じのとぼけたフリで「あ、じゃあ普通のやつでお願いします」と言った。

これが間違いだった。

 

彼女は「少々お待ち下さい」と感じ良く言いレジが
七台くらい並んで冗長なレジカウンターの端の方まで行ってなにやらガソゴソしてる。なるほど、あすこに在るんスね在庫が。少しすると戻ってきて「少々お待ち下さい」とまた言った。そこには在庫なかったみたいだ。
すると彼女は幾人かのミュージシャンが特設されたブースが幾つか固まって並ぶ方向にとたとたと小走りで移動していった。あ、このフロアにはYUKIが特設されたブースはないよ。と僕は思った。
案の定、彼女はとたとたと小走りで戻ってきて、今度はミュージシャンが50音順で並ばされた通常のJ-POPの棚の方へ。うん、そこにもないんだよ初回限定盤しか。と僕は思った。
ここまでで既に5分くらい経っていた。他にもお客さんはいる訳で、なのにレジカウンターには3人しかいなくて、その内のひとりを僕がすでに5分間独占している訳でかなり申し訳ない。客からと店員から、なんか無茶いってんだろコイツ全く迷惑だなあ、の視線が痛い。
彼女が戻ってきて明確に少し焦った顔色で「少々お待ち下さい」というので、いや初回限定盤で良いですよと言おうとしたが、サービス精神からなのか、簡単に見つかると思った物がなくて焦ったのか、僕に発言する暇を与えず、レジカウンターの隅の方にあるパソコンで何やらカタカタしてる。おそらく店内の在庫を調べているのだろう。え、やっぱアンじゃん。私見た時なかったんだけどみたいな訝しい顔色だ。そう、多分下のフロアにはある。俺が横着しただけだ。スマン。いいんだ、もう。すると彼女もどうやら所在地に気付いたっぽく僕の前にくると「少々お待ち下さい」と今度は笑顔で言った。笑顔で言われたらもう無下には断れない。別に初回限定盤でいいやと持ってきたのに軽い気持ちで通常盤に変更してごめんなさい。レジ待ちの客が増えた為か他のフロアから二人増員されていた。泣きたくなってきた。
メイド服の女は下のフロアに降りて行った。

今日の夜は雪になるかもしれないくらい外は寒いというのに、僕は変な汗をかいていた。親切だし、接客態度はいいが、いき過ぎると却って迷惑だなあ等と不粋な事を考えた。こんなにしてくれなくて良いのに。メイド服を着てたけど、あれは彼女の趣味嗜好ではなくて生き様なのではないか?奉仕の精神が溢れて表に噴出した結句のメイド服なのではないか?10分は十に過ぎていた。


彼女がバタバタと走って戻ってきて、つまづいて転んだ。僕はもう泣いた。

 

漸く僕の目の前に立ち軽く息を切らしながらどこか誇らしげに通常盤のアルバムを持つ彼女の前髪が、汗で少し造形が乱れているのを見た。

それは、帰宅したらポルカドットスティングレイから聴こうとしていたけれど、YUKIから聴こうと決心した瞬間だった。