第3回夜の散歩報告書

 

誰よりも私をちゃんと見透かして
口の悪さや強がりは"精一杯"の証拠だって

 

 

これは僕の好きな音楽家椎名林檎ともさかりえに提供した曲『カプチーノ』の一節だ。上の歌詞にあるような人を、誰もが求めているのだと思う。

 

 

 

さあさ、第三回の散歩をします!と言ってから随分と月日が経ってしまった。
というのも、単純にタイミングがなかったのもあるし、一息つく頃に大風邪をひいてしまい、それは治ったものの体力を消耗するような事は避けようとしていたのと、その萌芽はあったものの小さく気にしていなかった左足に出来た魚の目が散歩していなかった1ヶ月の間に、目高の目から秋刀魚の目へ。秋刀魚の目から金目鯛の目くらい成長してしまい痛みで普通の歩行も困難。竈門炭治郎ばりに、僕が長男だから我慢出来たけど次男だったら我慢出来なかった。くらいの状態の痛みになっており、そんなこんなやっていたら季節が確り移り冬になって単純に寒くなりすぎたというのがある。


この、夜に集まって朝まで散歩というイベントの性質上、寒くなりすぎるとやはり開催は不可能だ。しかし、年内にあと一回はやっときたいなあと思っているところに、14~15日未明にふたご座流星群が活発化するというではないか。
これは、やらなきゃ意味ないよ!と日大アメフトの監督ならずとも誰もが言うと思う。


ということで散歩しようとしたのだけれど、前回は人が集まらず中止という悲しいmemoryが僕にはあって、あんなtragedyは金輪際真ッ平御免蒙る。
そこで、ひとまず既定の三回目のルートである、渋谷駅集合皇居目指しをやめて、ほうき星を探す散歩な訳だから、検索すると砧公園が良いみたいよと、インターネット・プロトコル・スイートを使用し複数のコンピュータネットワークを相互接続した地球規模の情報通信網上で専ら噂なので、ここをゴールに設定。
今までの経験上、散歩は10㎞前後が丁度良く、それくらいの距離を探していると僕の最寄り駅からは8.8㎞と程よい。万が一、いや千が、いや百が、いや十が一誰も集まらなくても、家から出なければいいだけである。駅まで徒歩一分。どうしても天体を観測したくなり、見えないものを見ようとして望遠鏡を覗きこむのなら、近場の中野セントラルパークにでも独りで行けば良い。つか中野に行くまでもなく東高円寺には蚕糸の森公園という立派な公園がある。
しかし深夜は男性の同姓愛者達が集うハッテン場になるという噂のある場所なので避けたい。つうか、そもそも散歩は酷く個人的な催しなんだからこれから毎回東高円寺駅発でも良い。まあその場合行ける場所が限られてしまいそうだけど。


まあ、そういった後ろ向きな思惑な下Twitterで募集をかける。しかし案の定反応がなく、焦った僕は、これまた近くに住み以前から散歩に参加したい散歩に参加したいという戯言囂しいパイセンのゴールドラッシュの田邊という男根を誘うも反応がなく、あ、コレ100%見ているのに明日とかになって「ごめん!気付かなかったー!」とかいう思わず糞かよと叫びたくなる女子大生みたいな真似をしてくるなと思っていると現にそのような返信が、後にあった。そんな腐った真似をして、実家の両親とあの立派な男根が泣いておるよ。


さて、僕が近くのスーパーで赤ワイン、揚げた豆、リンゴなどを購買後駅の近くのベンチで赤ワインをグビッと一口やったのが23時45分ころ。
すると、完全なる装備のミニ暖かホワイトグラタンみたいな娘がこちらにやって来た。なんだ?逆ナンか?と思っていると参加者で、なんとなんと、またうら若い女性だった。彼女は先週誕生日だったらしく25歳になりたてのオフィスレディで、名をdropdownトミーズ(仮名)と名乗り、以降ddtと呼ぶことにした。
暫く待つも当たり前の様に誰も現れず、初のサシ散歩か?と思われたその時、颯爽と腹痛ケットC(仮名)が現れた。腹痛は中学・高校と僕の同窓である友人で第1回夜の散歩の参加者である。なんとリピーター参上である。
それが24時10分の出来事なので、そのまま出発。
何でだろう。毎回三人での出発になる。毎回、男ふたりの女ひとりの90年代に売れたアーティストの黄金比みたいなユニットになる。
なぜなんだろうか。あとひとりふたり増えてもいいんだよ読者諸君。

さ、毎度出発してすぐに自己紹介タイムがあるのだけれど、名前や仕事などを説明後何かひとつ最近気になったニュースなどを発表する。僕はもうサッカーの話題。ザルツブルグの南野選手がリバプールに移籍ということで、リバプールといえば前年のヨーロッパで一番強いクラブチームを決めるCLで優勝した、現在地球上で最強のチームである。これは凄いことですよ本当。これからもDAZNが手放せないですよ。みたいな事を熱弁。腹痛もddtも全くサッカーに興味がなく、この寒さの中でこんな温度差出されたら死んでしまうので話をそうそうに切り上げる。次いで腹痛の最近気になったことは、フォアグラって、ガチョウやアヒルに餌食わせまくって無理やり肥らせて作るというのを知らなかったらしく、それとのこと。そんな事も知らなかったのか!と僕はもう逆に驚きである。美味しんぼを読め!
そして、最後にddtなんだけども、酷く個人的なんですが、と前置きをした上で、明日彼氏をフッてやろうと思ってます!と鼻息が荒い。これは穏やかじゃないねと、吉純と腹痛の35歳のおじさん達はおろおろ。
日本酒を瓶でぐいぐい呑っているddtの話を聞いてみるとなんでも、先週の誕生日に5年付き合っている彼氏は自分の趣味を優先して会ってもないし何もしてくれなかった。来週ね、と言われてそれが明日なのに、つか明けて今日なのにこの時間になっても何の連絡もない。なので、明日別れを突きつけてやろうと思っているッッ!と言う。なるほど。確かに酷いかもしれない。けれどそれですぐに別れるとかは早計というか、なんなら今は迷子になってるだけで、現にろくに進路を調べず酒を飲みずんずん進みながら10個以上歳の下の娘の恋ばなを聞いている内に僕らは迷子になっているではないか。非常に複雑な住宅街をくねくね行かないといけないのに。慌ててスマホで調べて軌道修正。途中川沿いに歩いていると神社があったので参拝。公園で二人がトイレに寄ってる間に流れ星をふたつ観測。
さらに住宅街をずいずい進むと下高井戸駅周辺にやってきた。これは順調に進んでいる証拠で、この辺りで砧公園まであと一時間であった。商店街にはやたらと日大頑張れみたいな看板みたいのが立て掛けてあり、迷子から脱出した僕らは、恋ばなに戻り、その素っ気ない彼氏にちゃんと可愛く拗ねたり甘えたりしたのか?と、やらなきゃ意味ないよ、と日大アメフトの監督の様にアドバイス。しかし中々それが出来ないのだという。それも分かるが…。


と、また調子に乗ってぐいぐい住宅街を一時間くらい進んだのに公園らしき気配がない。腹痛が腹痛いと言い出して、トイレ行きたいというので丁度店なみのある通りに出たので、トイレ行っている間に、もう一度進路をスマホで調べると、目的地まであと一時間だという。

は?

一時間なんて一時間前に過ぎたよ。という迷子になった奴が必ず言う台詞を雑魚キャラっぽく叫ぶと、この通りどこかで見たことある。あれ?あの日大頑張れみたいな看板は…。なんとそこは一時間前に通過した下高井戸商店街だった。なんとグルッと住宅街をまわってもとの場所に戻ってきてしまったのである。樹海。そんな2文字が浮かぶ。戦慄が走る。下高井戸ラビリンスに閉じ込められた。一生僕たちは下高井戸から出られないンだ!と錯乱しかけたけれど、まあまあ楽しく生きいけそう下高井戸。

気を取り直し、ここからはずっとスマホにナビしてもらいながら砧公園を目指す。

 

斯くして、到着。ずんずん中を進んでいくと薄暗い丘みたいになっている原っぱがあり、僕ら寝転んだ。
迷子になりすぎて通常なら二時間かからず到着する8.8㎞の道のりを何㎞歩いたか分からないが、着いたのは4時を過ぎていた。

疲れからドッサと寝転がるも冷気が地面から身体を冷やす。風が吹いて表面を冷やす。とんでもない寒さだった。疲れじゃなくて、寒さから眠くなった。

しかし、最終的に僕は10個の流れ星を観測。ddtは若く動体視力が良いのか12個。腹痛はなんと1個だけしか観測出来なかった。


多分寝転がっていた時間は10分~15分程度だと思うが、寒さが酷く、限界!と思って立ち上がると身体が半分凍ってるのかバリバリになっており、もう動きが硬いし、凍ってる状態で急いで動いたら身体が折れたり損壊してしまうのです。とよく分からないけど本気でそう思ってます。みたいな、なんかそのときはそれが正常な思考というか、それくらい寒くて、なんか腹痛が吐いていた。
急に酔っぱらって吐き初めていた。あれ?お前いつの間にそんなに飲んだ?という感じで呂律も回らず、なんか目の焦点もあっていない。怖い。寒さにやられたか?と思っていると、なんと車で奥さんが迎えに来てくれてる、とのこと。

は?

こんな時間に?え?お前んち埼玉の方じゃ??

ということで、車で腹痛の奥さんがやってきてddtと僕は渋谷まで乗っけてもらった。旦那をこんな状態にしてしまって、最初奥さん怒ってるんじゃないかと不安だった。現に口調も素っ気なく、怖かった。しかし、話していく内に単にそういう人なだけで、旦那が吐きそうなら車を止めて、一緒に外に出て背中を擦ったりしてしていて、とんでもなく優しい女性だった。

車の中で感心する俺とddt。夫婦というものを見せつけられた。素晴らしかった。もし俺だったら絶対に迎えに来ない。そんなような事を言うと、ま、それはお互い様だから!と奥さんは笑っていた。ぶふぁ。卑屈な感じでヘラヘラするしかなかった。


渋谷で降りて腹痛夫妻に別れを告げる。しかし、あまりの寒さに、駄目だ。汁。ラーメンを食おうということになり、駅の近くで麺を啜る。


かつて、僕も25歳の頃に七年半付き合った彼女と別れた。そんな話をしつつ、もう本当に駄目だ!と思ったとこからあともう一歩だけ譲ってあげて、様子を見たら?と他人の恋愛には神様のようにアドバイス出来るもんで、してあげた。


冒頭の歌詞が頭に浮かぶ。

しかしあの歌の歌いだしはこうだ。

 

あと少し私の成長を待って
あなたを夢中にさせたくて
藻掻く私を可愛いがってね

 

相手に足りないところを求めつつも、自分の成長を待ってくれと言う可愛げ。

やはり素直が一番なのである。

 

 

ということで今回は恋ばな散歩でした。流れ星に願いは出来たのか。小さい声で「金、金、金」と聞こえたような気もするが。

しっかし。散歩はもう暖かくなるまで少し中断。死んでしまう。

 

 

でわでわ、散歩はまた春に。

 

 

真ッ冬にやるかもしれんけど。