八戸探訪日記。その5~人に優しく~

宿舎に戻ると日本語が全く話せないけれどやけに人懐っこいフランス人ダンサー、マシューが共同スペースのキッチンで何やら海外の音楽をかけてノリノリでご飯を作っていた。
マシューはちゃんとしたベジタリアンで肉はもちろんのこと魚も駄目。なので日本の料理が中々口に合わない。スーパー等で野菜を買ってきて度々、調理していた。
僕らは章でたらふく食べてきたけれど、マシューは迫りつつある台風の影響で、予定を前倒しして明日早い時間にフランスに帰るという。2日めの横丁オンリーユーシアターにはいないので、ここでお別れということで、僕らはそのままキッチンでお酒を飲むことにした。
マシューは大きな白い皿に玄米と葱で作ったリゾットのようなものと、ポテトを炒めたものと、バナナを切ったものをセンスよく綺麗に並べて、流石フランス人!といった感じで、僕らもワインを買ってきていたので、早速頂いた。


すると何の味もしなかった。うひょう。もう一度言う。何の味もしなかった。うひょうである。
健康には良さそうだ。あと不味い訳ではない。しかし何の味もしなかった。何の味もしないリゾットを食べていると、バナナの甘味を凄く感じられて、バナナと一緒にリゾットを食べると辛うじて味がするというか、でもそれは決して美味しい訳ではなくて、つか、美味しいとか不味いとかそういう次元の話ではなくて、如何せん味がないので評価が出来ないというか、やはりベジタリアンの方はこういう料理を食べるのねー。と、コメントに困り皆たじたじして優しい味だねとか健康的とか歯切れ悪く言っている。しかも善意でやってくれているので尚更申し訳ないというか気をつかうというか。
すると、マシューは英語でペラペラ何事か喋った。
高畑君は英語を喋れるので、つか高畑君は全方位出来る男だな。高畑君に訳してもらうとマシューは「ごめんよ~、調理しはじめてから塩ないことが分かってさ、味しないだろう?ハハハ」とのこと。全員ズッコケ。
何だよッ!気使って損したよッ!スッゲエ不味ぃよコレッ!食いたくねえよッ!罰ゲームかよッ!と皆が口々に言う。流石に言いすぎだぞ、と僕は思ったけどそこは出来る男の高畑君。余計な事は訳さない。しかし僕はベジタリアンは美味しいもの食べていないと思いこんでいた節があるな、と思い反省した。思いこみはやっぱり怖い。

 

会もお開きになり部屋に戻りトランプなどに興じていたけれど、皆疲れが見えはじめ割と直ぐに寝た。

僕は共同スペースにあった乾燥機つき洗濯機で洗濯していたので、しかも、お急ぎじゃなく、普通にやっちゃって、完全に乾くまで三時間くらいかかるということで、やっちまった。早く寝たいのに寝れない。また風呂に入って時間を潰すなりなんなりして寝る前に時計を見た時は4時を過ぎていた。

 

当たり前の様に一番最初に目が覚めると、外はどんよりと分厚い雲だった。
いつ雨が降り始めてもおかしくないような雲だったというか、なんなら少し降っていた。

8時頃に目が覚めて小声で朝だよ!と言うと今日は割かし男たちがスッと起きて、女どもは起きる気配すらない。
天気も悪そうだしだらだらしていると、長谷川さんが、はっちの中を見てみる?というので、男連れ四人で一階へ。

すると各種イベントをやっていて子供達の多さが目につく。賑わっていた。

ひとしきりはっちの中を見てまわって部屋に戻ると女たちも起きていて、どこ行ってたんですか?と聞かれたので、現在はその建物が大層古く文化財にもなっている昔の遊郭の旅館だとか、深い谷底まで見える採石場まで行ってきたなどと観光を楽しんできたと嘘をついて、悔しがらせる。悔しがっていた。単純だなと思った。


昼飯を食べて、部屋でうだうだしてると今度は女たちがはっちの中を見てまわってきたらしく、何やら林業のイベントをやっていて、その一角で木の馬に絵の具で色を着けて遊べるコーナーがあるからやろうとか言い出した。

俺はこの時眠気が酷く眠りたかった。しかも、木の馬に色など塗りたくなかった。何が楽しいんじゃボケえ。大体それ子供が遊ぶことじゃないの?なんでもう35歳にもなった立派な大人がそんな児戯でキャッキャッせなあかんの?八戸は漁師の街やで?きっと風俗街もあるやろ、一発抜きたいわあ。せやろ?せやもん。等と輩のように思い布団に突っ伏していたはずなのに気がつけば、一番俺が絵の具で手を汚して木の馬に色を塗っていた。
でも俺は本当は、横でやっていた木のパーツで梟の置物をつくるやつがやりたかった。めちゃくちゃ楽しそうだった。あっちなら色も塗れるしボンドで木と木をくっつけたり出来るし、そもそも僕はボンドの匂いが好きだ。もっと早くきてたらどっちも出来たのに、ンもう。

 


さあさあ、いよいよ雨が強くなってきた。今日本当に開催するのか?


定刻になりBARダンディに行くと、スタッフの方から今日はもしかしたら中止になるかもしれない。とのこと。こんな天候なのに有難い事にお客さんがパラパラと来はじめて、とりあえず1公演目が行われた。

終わるころには大会本部も意向を発表し、2公演めで終了という運びになった。

CHARA DEメンバーは最後まできっちりとやりきり、横丁オンリーユーシアター2019はfinish。演技など流れの完成度としては最後が一番良かった気がする。

 

 

その後、全体の打ち上げというか飲み会があり、まあ色々あったんだけど特筆する事でもないかと割愛。なにしろこのブログがあまりにも長くなってきていて俺も飽きてきた。この時、関東では川が氾濫したり大変なことになっていた。

 


宿舎に戻って最後の夜。前日キッチンで飲んだ様に、今日はドラァグクイーンのオナン・スペルマーメイドさんと飲んだ。よくわかってない人の為に一応言っておくけど乱暴に要約すると、オナンさんはおねえだ。


この文章ではあまり登場してこなかったけれど、ちょくちょくオナンさんとはふれあいがあり、何より初日の飲み会でオナンさんは高畑君を大層気に入り、チャンスがあれば高畑君を抱こうとしていた。ワンナイトを所望していた。我々も何かと協力的で、わざと二人きりにさせてみたり、オナンさんの部屋で寝れば?等と焚き付けてみたりした。この夜には皆が目をつぶり10秒だけ高畑君を好きにしていいというコーナーがあり、10秒経って目を開けたら、オナンさんはズボンを脱いでいて高畑君の首から耳が唾液でぬらぬらしていた。高畑君もニコニコしていて満更でもない感じだった。

 


そんなオナンさんは、とても品があり、言うことは言うが、何より全体を見渡し調和を尊ぶ人だった。とんでもなく懐が深い。話していると、自分が抱えている問題を正しく解きほぐしてくれるような、なんというか、錠剤。安定剤みたいな人だな、と思った。

 

オナンさんと話していて、ひとつ凄く刺さった文言がある。

僕はそもそも生きるのが下手だ。人見知りだし人付き合いも苦手だし、なにより人に優しく出来ない。なぜなら度量が狭く自分のことしか考えてないからだ。追い込まれると他人のせいにして逃げる悪癖がある卑怯者だ。謝ることも出来ない。他人との調和を望むくせに和を乱すことを厭わない。厭わないというか乱れた方が面白いと思っているから性質が悪い。
さらに他人を、この人はこうだ!と決めつけてかかる節がある。それはイケナイことだけど、その上でイケナイことだと思っていない。

その部分をオナンさんに指摘してもらった。


決めつけるのが悪い訳じゃなくてさ、こう!と決めつけられた他人とは、最初の段階で歯車があってないから、その上でしか関係を築けないよ。何か違うなあが互いに積み重なってってそのうち崩れて、互いに興味がなくなっちゃうよ。それって悲しくない?と。

うわあ。まさにその通りだな。

しかも、この発言はその時の場を乱しかけた俺を諌める為に言った発言であり、あくまでカウンターであり、本当にそう思っているかは二の次、調和の為の発言だと俺は分かるから、尚更凄いと思った。
長谷川さんなんかはこういったオナンさんみたいな事をよくやる。そういう度量があり気遣いをする。この時もしていたし、全体打ち上げの時にもしていた。


僕は疲れも酔いもあったけど、何よりこのオナンさんの暖かさに打ちのめされた。自分が何て下らない人間なんだろうと感じた。
そして、不思議な事に、それは救いだった。


結構遅くまでキッチンで飲み、皆部屋に戻り最後の夜。

 

僕は布団に寝転がりながら、さっきの事を反芻して過去の事を反省していた。過去というか過去の恋愛、前の恋人について。

最後まで優しく出来なかったなあ。優しく出来なかったというか傷つけてばかりだったなあ。無意識だったけど、もしかしたら俺は、より傷ける為に優しいフリをしていたのかもしれない。人間を35年もやってるのにちっとも上手く出来ないや。もっと上手な人が沢山いるのに。それとも上手く見えるだけで、皆辛いのかな?なんねて。

今回、僕は青森の八戸に来てコントをしたけれど、コントをしに来たというよりも旅行に来たという感覚だった。旅行先で好きなコントもやる、みたいな。

旅には色んな目的があるだろう。日々のストレスの発散だったり、景色や料理などを楽しんだり、慰安などもあるかもしれない。

僕にとって旅行は、いつもの場所ではないところでいつもの場所に持って帰れるものを探すことなのかなあ、なんて漠然と思う。

僕は東京に帰ったら今までよりも少しだけ、人に優しく出来そうだな、と思った。オナンさんだけではなく、責任者の今川さんを筆頭にイベントを通して関わったスタッフさんだとかお客さん。BARダンディのママ。市場のおばあ達。その他八戸の大勢というか空気に触れて。あとCHARA DEメンバーにも感謝。

 

 

話が大分個人的になったけど、これは僕のひどく個人的な旅の日記である。了承してもらいたい。

 

 


と、そんなことを布団に寝転がりながら想っていたけれど、僕は大イビキをかいていた。

まあー僕は寝てる時、イビキも凄いし寝言も頻繁、寝相も悪いし、歯ぎしりなんか滅茶苦茶する。
特に疲れてたり飲んだりしたら、自分のイビキの大きさにビビって起きるくらいだ。
ストレスがたまっていたら歯ぎしりも凄いし、以前歯の詰め物がとれたから歯医者に行ったのに、歯ぎしりを心配された。ストレスを軽減してください、と。しかも何がストレスになっていたか自覚がなかったので尚辛い。
寝言も電話しているのかと思うくらいひとりでずっと会話しているので、端からみたら不気味だろう。

なので迷惑をかけるし何より恥。無意識だったけど、なるべくそういう姿を見せない様にだれより遅く寝て誰より早く起きていたのかもしれない。眠っている間は自分を隠せない。でも兎に角、この旅でなんか心が軽くなった気がする。本当に来て良かった!

 

と、ふと目が覚めて自分が寝ていた事に気づく。

 

 

すると、長谷川さんがいつもの様子と違い、最後の夜だからなのか、さっきの飲みが楽しかったからなのか、タガが外れ、もう滅茶苦茶な状態になっていた。弄り倒しボケまくりの場をブン回しで、その姿はまさに大魔王だった。僕が眠っていた間に何があったのだろうか。周りの皆が笑ってはいるけど、常軌を逸している長谷川さんに少し怯えているくらいだ。

 

僕は思った。ひとりにさせる訳にはいかない!!

 

僕はすかさず風呂に入り気力体力をチャージ。魔王Jとなり部屋に戻ると、大魔王と魔王の饗宴。もはや、笑っているのは長谷川さんと吉本純だけみたいなボケの応酬。他のメンバーは戦々恐々とするしかない地獄みたいな時間だ。外は嵐。世界が注目する過去最大クラスの台風だ。や、でも地獄は言いすぎだ。実は13日はたなしゅうの誕生日で、ただの泥人形だった土塊が東の魔女の呪いで意思を持ちはじめて33年になるという。なので僕はギターを弾いてハッピーバースデートゥーユーと全力で歌ってあげた4時を過ぎていたけど。それに皆も台風の進捗が気になると思い窓を全開にしてあげた。暴風により雨が部屋の中にずびずび入ってきてびしょびしょ、そこから何故か長谷川さんがベランダに出たのですかさず窓を閉めて鍵をかけるなどした。封印したー!ヤッターッ!!とゲラゲラ笑っているのは相変わらず俺と長谷川さんのみで、もうどんだけ無茶出来るかみたいになってきたのでここらで寝よう。と大人の貫禄を長谷川さんが見せた。格好良かった。格好いいと言ってるのは俺だけだった。というか皆寝ていた。寝ていたというか気絶していた。

 

まあ、最後の夜はそんな感じだった。


(つづく)