第5回夜の散歩報告書

 

僕は透明人間さ きっと透けてしまう 同じひとには判る

 

これは僕が敬愛してやまないバンド東京事変の『透明人間』という歌の冒頭の歌詞だ。イントロもさることながら唄がはじまってこの一節で心を鷲掴みにされてしまう。歌詞のすべてがビンビンにキテしまう。なんなら勝手に自分の人生のテーマソングにしている歌のひとつだ。キャ言っちゃった恥ずずッ。

 

さて、暫く夜の散歩をしていなかった。前回が1月4日だったので実に2ヶ月以上ぶりである。暖冬とはいえ夜は寒くヤンナッチャウヨとひとりごちながら冬を越え、もう春らしき風の吹きようである。
飲酒も散歩も控えた2月が終わり気を張る予定だった3月を迎えたものの、以前述べたように夜が暇なのと、昨日は気が向いたので散歩をすることにした。
といっても22時頃に告知したので今回は誰も集まらないだろうと思われた。それで良かった。ゴールがないからルートもなく、さらに朝まで散歩というか今日は帰りたくなったら帰る。そんな感じで募集。僕の最寄り東高円寺駅に集合とTwitterで呟いた。

 

風呂あがりに冷えた日本酒をズイと飲み、23時45分頃に近所のスーパーで赤ワインと揚げた豆を購入。
東高円寺駅の出口脇の石のベンチに座りワインをやっていると、クレオパトラの長谷川さんから連絡があり集合場所が少し遠いんだよな、とのこと。
僕は、誰も来なかったら中野のセントラルパークで少し月をひやかしたあともう少し歩いてゴールドラッシュの田邊さんに連絡をとり、家にあがりこんで家財道具を無茶苦茶にしてやろう。のち電気機器に小便をかけてショートさせてやろうと思っていたのだけれど、そんな無益な詮ないことはやめて、長谷川さんの家に向かうと決定。家の目の前のバーで飲みながらR-1素晴らしかったねと語り明かそうと思った。


時間が24時になり誰も来ねえなと思い立ち上がろうとすると、後ろからあのーと話しかけられた。
振り替えると背ィの小さな利発そうな顔つきの女性が立っていて、何だ?逆ナンか?と思ったら参加者だった。
名を聞くとTVゲーム『FINAL FANTASY』での最強の白魔法を唱えたので、何だコイツ俺がアンデッド系のモンスターだったら消滅してたよ等と訝しんでいると、どうやらそれが名前らしくFF白魔最強(仮名)というようだ。
彼女は聞くと、僕の相方である松崎君の家の近所に住んでおり、ならば近所であり、俺が急にふらりと帰りたくなっても歩いて帰れる場所に家があり、助かる。

話を聞いてみるとなんと同い年で、しかも僕は東京アナウンス学院卒なんだけど、FF白魔最強はその系列のTOHO学園の卒だと言う。照明などを学んでいたようだ。では現在もテレビ局なんかで照明をやっているのか?と尋ねると手拭いを売り捌いて生計をたてているという。なんてお洒落な仕事なんだ。
ということで、あらら、やさしい雨のことを旧くからご存知のご様子でした。

 

まあ、目的地を定めず歩くのも酷なんで、どうしようか相談すると「としまえん行ってみますか?」と提案され、なんか楽しそう。つうか歩いて行ける距離なのか?と不安だったけれど、一時間半くらいで着くとのこと。丁度いいわ。24時10分まで他にも誰か来ないか一応待って、案の定来ず、出発。

 

出発してすぐ、大通りを歩いていたのだけれど、道の向こう側に大きな看板があり、そこには柴犬と秋田犬の写真がドーンとあり大きな文字で『柴犬』『秋田犬』と書かれている。なんのこっちゃわからん。ペットショップなのか?にしては店舗の入り口が町の小さなサ店みたいな様相で、明かりも乏しく廃れて見える。さらに赤い旗の幟が2本掲げてあって、そこには『豆柴』とあり、なんか饅頭屋で大福でも売っているのかと勘違いする。
あの店はなんだと気になり、歩道橋を渡る。近くまで寄って見てみると、ウィンドウ越しに犬のゲージなどやらが見えるが、ぼろぼろで廃墟。千切れゆくカーテンの隙間から中を覗くと物置小屋のようになっており、入り口のガラス戸には「ワンちゃんは余所にいます。うつした」と書き置き。なんか怖い。ワンちゃんは余所にいるのか。ワンちゃんは余所にいるってなんだろう。とにかく畜生が見れなくて残念だった。夜に畜生を見ると高まるじゃないですか。

歩道橋を再び渡り元の道に戻ろうとするとき、やけに空が明るいと思ったら。満月だった。出発した時は雲がかかっていたのだけれど、完全に晴れ、綺麗な満月が見えた。


ルート的にひたすら北上するだけなのだけれど、しばらく歩くと住宅街のただ中を歩く事に。僕は時折「声がでかい」と注意されるのだけれどこの時もFF白魔最強に注意された。芸人の中にいると声は小さいほうだけれど、やはり一般の方と話していると声はでかいようだ。しかし、声が大きくなるのも致し方ない。
なぜなら好きなバンドが一致していたからである。

なんか音楽の話になって、FF白魔最強は、つか長くて面倒臭いな以降FF。FFは昔ゴスペラーズが凄く好きで、別にそれはそれでいいじゃんて思っていたら、その過去が恥ずかしいと。なんでだよ別にゴスペラーズって変なグループじゃないだろ、と思ったけれど、何を恥ずかしいと思うかなんてのは人夫夫でありその羞恥の心は伺い知れぬものである。
とにかくゴスペラーズを好きだった事を他人に絶対にバレないように人生を送ってきたのだという。もう一回なんでだよ。隠れキリシタンかよ。

じゃあ、今好きなミュージシャンは?と聞いたら、なんとEGO-WRAPPIN'や椎名林檎東京事変だというではないか。
それは自然と声が大きくなるってもんですよ。


FFは、つかFFっていうとジョジョ第6部のフー・ファイターズと混同してしまう方がいるかもしれないので以降ホーリーホーリー東京事変になりたての時のツアーに参加しまくっていたらしく、あの1期メンバーによる『透明人間』を生で聞いていたらしい。どえりゃあ羨ましいのである。
『透明人間』は東京事変ファンなら定番中の定番ナンバーではあるものの、セカンドアルバム『大人』ではじめてCDになったその時には2期メンバーによる収録で、アレンジが違い、当時ファン達を困惑させたものである。もちろんそれでもいい歌には変わらない。けれど、1期メンバーによる透明人間はまた格別なのである。ツアーDVDには収録されているが、間奏でのキーボードヒイズミマサユ機(当時はH是都M)の演奏が特に秀逸なのである。それを生で見ただとッッ!キィキィ


などと話していると、いつの間にか目的地である『としまえん』に着いていた。僕は人生で3、4回しか来たことがなく、しかもそれもプール目的だし記憶も朧でそんな感じだったので、としまえんがこんな住宅街にいきなりあるとは思ってなかった。

入り口の方に近づくと「本日はとしまえんはおやすみです」の文字。張り紙がしてあって、コロナウィルスの影響で3月の15か16日くらいまで休むとのこと。悲しいなあ。たしか今年、閉園するとニュースで見た。なのに悲しいなあ。


時計を見るとまだ2時とかちょっと過ぎたくらいで、丁度いいわ。明日も仕事というホーリーは途中で帰宅。俺も家路に。しかし。


ひとりになると、久しぶりの飲酒だからかワイン一本開けただけで結構べろべろになっていてふらふら。
月がやたらと丸くて、あれ満月じゃん!とさっき気付いたはずなのに、今気付いたみたいな感じで、まっすぐ大通りを南下すればいいだけなのに、細い路地をくねくねしながらくねくね進む。

ラーメン屋があって入ろうかと思ったけれどガラガラでやめた。さらに歩くと居酒屋があってやたら赤くて僕の脳を刺激してくるので入ろうかと思ったけれどガラガラでやめた。ガラガラだ、どこも。途中でみかけたファミレスもガラガラ、24時間やってると思ってたオリジン弁当も閉まってた。わかめのおむすび食べたかった。

しかたなくふらふらになりながら歩く。どの店もガラガラだったけど、意外と人は歩いていてこんな深夜なのに綺麗な若い女性がよく歩いている。ナンパなんぞしてみようかと思ったけど、こんな酔った状態では勃起しなそうな予感がビシバシでやめる。嘘。シャイで声かけられなかった。


そろそろ見慣れた道になってきて、あ、そうだ前の住居はもうないんだけど、その前を通って帰ってやろうと思い、暗い路地をひとりゆく。

すると、小路を曲がったところでサササと逃げゆく畜生の影。はいタヌキでした。杉並区には野良のタヌキがいて、深夜の住宅街を蹌踉としているとたまに出会す。僕はこれで三度目だ。警戒心が強くいつもサササと逃げるのだけど、お尻をフリフリして丸々しているわりに素早く逃げる様は愛らしい。尾も太い。
昔何かで見たんだけれど、東京でタヌキに遭遇する確率は0.001%らしい。

僕が過去に見た三度(一度目の時は3びき一緒に)は全部違う個体だろうけど、またあなたに逢えるのを楽しみに待ってさようなら。

 

 

散歩、ひさしぶりにしたらやっぱり楽しかったので、3月はまたすると思います。ドシドシ参加待ってるぜ!