煙草を吸うということ

僕は今日、朝からもの凄く煙草が吸いたかった。なんというか朝から苛々して仕方なかったのだ。


Hi-liteを1日一箱二箱、オールで飲んだら三箱四箱いってたヘビースモーカーの僕が、きっぱりと、そしてさっぱりと禁煙してからもうすぐ4年になる。
禁煙した理由はここでは重要ではないので割愛するが禁煙以降は当たり前だけど一本も吸わずに今日までやってきた。
飲みの席だろうが昼間のBBQだろうが仕事で達成感を得た時も泣きたいくらい悔しい思いをした時も生みの苦しみに喘いだ時もダサい失恋した時も、ずっと、ずっと、きっぱりと、一本も吸わずにやってきた。
しっかし今日は吸いたかった。理由はまたもや重要ではないので割愛するが、簡単に言うと心が揺曵したのだ。もうフラフラで立っておれませんという状態。

そうなると何かに依存したくなるもので、こうブワッと最初に思いついたのが喫煙。それに想いが至ると朝から喫煙のことしか考えられず、え?吸うの俺?あんなに苦労して禁煙したのに?と、その状態になったことで驚きと共にまた苛々して、するとさらに吸いたくなって、我慢して、苛々して、ウガククとなって、駅のホームでふらふらンなって、駄目だと思い遂に、煙草をKIOSKで買ってしまった。


愛想の良いおばちゃんに渡されたHi-liteのソフトの感じが久々なのに手に馴染む。すぐ吸いたい。あの甘い香りで肺を満たしたい。

昔の僕ならどこで煙草が吸えるのか場所を把握していた。
知らない土地に行ったらまず最初にするのは喫煙所の把握だった。なので新宿駅周辺だと、あそことあそことあそこ!ここから一番近いからあそこで吸うか!みたいな感じで喫煙所を把握していたのだけれど、この4年で僕の意識が変わりそんな場所は把握しておらず、且つ世間の喫煙事情も変わり、とおい記憶を頼りに行った場所からは喫煙所が消えていた。
丁度腹も減っていたのでどこか店に入ろうと思い、いかにも喫煙出来そうな分煙なんて糞喰らえ!を信条にしてます!みたいな感じの汚ねえ中華料理屋に入ると禁煙だった。
苛々しながら腹を満たすともういいや、家に帰ってから吸おうと思い、電車に乗り、駅に着き、家に向かう途中に喫煙所を見つけた。味が濃いだけで美味さはサッパリだった中華で舌もどろどろしているし、すぐにでも、一秒でも早く、煙草を吸いたかった。とんでもなく吸いたかった。僕はヨッシャと心の中でガッツポーズをとると煙草のフィルムを剥がそうとしてハタと動きを止める。ライターがねぇ!!昔は鞄の中に二、三個常に入っていたライターがないのだ。サ店でとりあえずマッチをもらっとく癖も抜けた。なので煙草を吸おうと思っても着火出来ないのだ。ならば誰かに借りれば良い。サッと周囲を見渡すと間ンの悪いことに僕の他に喫煙者はおらず、さっきコンビニあったなあと思い、ライター買いに戻ろうかどうか迷っていたら、OL風の女がやってきて、細長いメンソール様の煙草に火を着けた。借りようと思ったのだが、そのOLはどこか草臥れていて、苛々した空気を周囲に照射しながらスマホを弄り、実に不味そうに喫煙していた。何だか僕は恥ずかしくなりその場を去った。家で吸おう。


家に着いた。誰にも邪魔されず、好きな時に好きなだけ吸えるプライベートな空間だ。火もコンロがある。
述べるのを忘れていたが、実は僕は実家に帰って来ている。母親が海外旅行に行くというので猫の世話をしに計5日ほど実家で生活することになり、昨日から帰って来ている。
実家では台所の換気扇の下でしか吸ってはいけないというルールだった。
そして、これまた後だしの情報で申し訳ないのだけれど、実家がこの4月に建ったばかりのタワーマンションに引っ越したばかりなのである。

ピカピカの室内で喫煙するのは気が引けた。台所も同様にピカピカだ。母親も昔はヘビースモーカーだったけど、僕がやめたタイミングで感化されやめた。なのでこの部屋で煙草はまだ吸われたことがないのだ。気が引けた。

タワーマンションには色々な共有スペースがあり、確か3階まで降りれば喫煙所があったはずだ。しかしそれが面倒臭く感じた。

 

 

僕は、僕は結局、煙草を吸わなかった。

 

 


吸いたくて吸いたくて煙草を買った。値段もスゲー高くなってると思ったら450円で大して値段変わってねーなと思い、これからも買えるなーと思った。吸いはじめた頃は250円だったからそれに比べると高いけど、俺は吸わなかったこの4年で500円越えてると思ってた。そうか、俺は煙草の値段すらわからなくなってたのか。
それだけじゃない。
この4年で喫煙所の場所もわからなくなったし、ライターも持ってない。煙草を本気でやめてくれと言ってるなら関係を断つと女性に偉そうに言ってたこともあるのに、煙草を吸う為の移動なんてノリノリでしてたのに、今や少しの手間すら面倒に感じる。

別に喫煙が悪いといっている訳ではなくて、今でも煙草の匂いが好きだ。


でも。


悪癖、悪習はすぐ身につくけど改善、矯正するのは時間がかかる。人は急には変われないけど、劇的に変えてやる!という決意と尋常ではない努力の末に、中々変われないのが人であって、人はそんなすぐには変わらないと思って過ごしていたらむしろ後退するんだと僕は思っている。


僕はすぐにくよくよしてしまうし意志薄弱だし自分に甘い。しかし今日、心が揺曵し喫煙しようとしていた自分を、禁煙していた四年間の自分に思い止まらされた。

コツコツと積み上げてきた自分を感じた。


だから何って訳じゃない。何も偉くなんかない。でも、そうだな。知らない間に少しだけ新しい自分になっていて、あまり好きじゃない自分を少し好きになれたんですよ今日は。

 

 

とか言ってる間に、新しい自分がやってきてやっぱり煙草吸っちゃお!ってなる前に寝る。おやすみなさい。